「酒は憂いを払う玉箒」、「酒は詩を釣る鉤」という言葉は、何となく知っておりました。それが宋の詩人の蘇東坡さんが書いた詩の中にあるというのも、何となく知っておりました。
ただ、蘇東坡さんが詠んだその漢詩がどんなものかがさっぱりすっぱり分からなったので、その昔、道立図書館に行って蘇軾さんの詩集探して、コピーしまくったのよ。すげぇな!その頃の私!
ちなみに、蘇東坡さんの本名は蘇軾。とってもグルメだったらしく、中華料理の東坡肉の名前の由来に関係するらしいです。
『洞庭春色』
二年洞庭秋 香霧長噴手 二年洞庭の秋、香霧、長しへに手を噴く。
今年洞庭春 玉色疑非酒 今年洞庭の春、玉色酒に非ざるを疑ふ。
賢王文字飮 醉筆蛟蛇走 賢王文字の飮、醉筆、蛟蛇走る。
既醉念君醒 遠餉爲我壽 既に醉うて、君の醒めたるを念い、遠く餉つて、我が壽を
爲す。
瓶開香浮座 盞凸光照牖 瓶開けば、香、座に浮かび、盞凸にして、光、牖を照ら
す。
方傾安仁醴 莫遣公遠嗅 方に安仁の醴を傾け、後遠をして嗅がしむる莫れ。
要當立名字 未用問升斗 要するに、當に名字を立つべし、未だ升斗を問ふを用ひ
ず。
應呼釣詩鈎 亦號掃愁帚 應に呼ぶべし釣詩鈎、亦た號す掃愁帚。
君知葡萄惡 正是母黝 君知る、葡萄の惡しきを、正に是れ母の黝。
須君灎海杯 澆我談天口 須らく、君が灎海の杯、我が談天の口に澆ぐべし。
二年の間、洞庭秋という蜜柑を食べ続け、今年は洞庭春というとてもきれいなお酒をもらったよ。
このお酒を飲んで筆を執れば、その文字はまるで龍のよう。
実は、このお酒は君からのおすそ分け。
瓶の封を切ると、香りは部屋中に広がり、盃に注ぐとその光は窓へ届く。
「洞庭春色」とは、よくいったものだね。
まさにお酒は、詩を釣る鉤、またの名を、憂いを掃う玉帚。
知ってる?葡萄酒は、珍重されているけど、妙に黒ずんでいるでしょ?このお酒の美しさには、かなわないよ。
できれば、君が持ってる海をも注がれちゃう大杯で、ぐーっといきたいものだねえ。
最初「洞庭春色」って、洞窟がある庭の春の景色なのかなと思っていましたら、洞庭は太湖の別名で、太湖の洞庭山は美柑の産地で有名だったとか。つまり、「洞庭春色」って、みかん酒?
きっと蘇軾さんは、みかん酒を飲みながら、いろいろな詩を作っていたのではないですかねえ。
参考にした本:蘇東坡詩集巻34(道立図書館にあった本のコピーなので、詳細知らず)