この土日に、台風10号さんから変化した温帯低気圧さんが近くにいらっしゃったと聞いて、ふと思い出したこの詩。
死んだ智恵子が造っておいた瓶の梅酒は
十年の重みにどんより澱んで光を葆み、
いま琥珀の杯に凝って玉のやうだ。
ひとりで早春の夜ふけの寒いとき、
おのれの死後に遺していつた人を思ふ。
おのれのあたまの壊れる不安に脅かされ、
もうぢき駄目になると思ふ悲に
智恵子は身のまはりの始末をした。
七年の狂気は死んで終わつた。
厨に見つけたこの梅酒の芳りある甘さを
私はしづかにしづかに味はふ。
狂瀾怒濤の世界の叫も
この一瞬を犯しがたい。
あはれな一個の生命を正視する時、
世界はただこれを遠巻にする。
夜風も絶えた。
この最後のね、『夜風も絶えた。』という言葉が、ぞくっとするというか、今まで心の中でごうごうと鳴っていた風が急に止んだ故のとまどいというか。そしてその静けさをもたらしたのが、1杯の梅酒。
・・・うーん、駄目ですねえ。これ以上何かを書いたら、違う方向に行ってしまいそうです。
ことばって、つよいがゆえに扱いが難しい。
参考にした本:『酒の詩集』(富士正晴編著)